打鍵音がマイクに乗るのは、空気ではなく机を伝っているからである

在宅の会議で「キーボードの音がうるさい」と言われたとき、多くの人はマイクの位置や指向性を疑う。ところが位置を変えても向きを変えても消えない、という経験があるはずだ。原因が空気ではなく固体にあるからである。

打鍵の衝撃はキーボードから天板へ伝わり、天板からマイクスタンドの脚、あるいはマイクアームのクランプを通ってマイク本体まで届く。マイクのカプセル(振動板)は、空気の振動と本体の振動を区別できない。机を伝ってきた振動も、そのまま音として拾ってしまう。

この経路を断つ部品がショックマウントである。マイクをゴムやシリコンのサスペンションで浮かせ、金属部どうしが直接触れないようにする。空気を伝わる音には効かないが、机を伝わる音には効く。逆に言えば、遮音材やポップガードでは代わりにならない。 効く相手が違うからだ。

打鍵音のうち天板が鳴る成分そのものを減らしたい場合は、キーボード側の対策と併用すると効果が重なる。

メリット・デメリット

メリット

  • 打鍵音・足音・机を叩く音といった固体伝搬のノイズが目立たなくなる。マイクの位置を動かさずに済む

  • マイクアームの軋み音や、アームを動かしたときの「ゴッ」という音が乗りにくくなる

  • マイク本体を買い替えずに済む。原因が振動なら、高いマイクに替えても同じ音を拾う

  • 多くの製品がマイクスタンド・マイクアームの標準ネジ(5/8インチ 27山、または3/8インチ 16山)に付くので、既存の環境に足せる

  • ゴム部品だけの単純な構造なので、故障する部位がほとんどない

デメリット

  • 空気を伝わる音には効かない。エアコン、家族の話し声、部屋の反響はそのまま残る

  • 対応マイクが型番で決まる。マイクの外径・重心・形状に合わせて作られているため、別のマイクに流用できないことが多い

  • マイクの位置が数センチ持ち上がる。口元との距離を取り直す必要がある

  • サスペンションのゴムは経年で伸びる。伸びるとマイクが下を向き始める

  • 型番が似ていても別の部品のことがある。後述するとおり、ショックマウントだと思って買ったものがポップガードだった、という取り違えが起きやすい

選ぶときに最初に決まってしまうこと

ショックマウントは「よいもの」を選ぶ買い物ではない。手持ちのマイクの型番で、買えるものがほぼ決まる買い物である。

メーカー純正品は特定の機種のためだけに設計されている。たとえば下記のAudio-Technica AT8455は「AT2020USB-X」「AT2020USB-XP」専用であり、同じメーカーの別のマイクには付かない。汎用のクリップ式もあるが、マイクの外径が合わなければ固定できず、重いマイクではお辞儀をする。

したがって手順は次の順になる。

1. 手持ちマイクの正確な型番を確認する(本体の刻印か、購入履歴で確認する)
2. そのメーカーの公式サイトで、対応アクセサリーとしてショックマウントが挙がっているか見る
3. 純正が無ければ、マイクの外径を実測して汎用品のクランプ範囲と突き合わせる

おすすめ製品の比較

注意: 以下は2026年9月18日に各メーカーの公式製品ページで確認した仕様である。価格は変動するため、購入前に商品ページで最新の情報を確認してほしい。

製品名メーカー対応マイク特徴
PSM1RODEPodcaster / Procaster など放送用スタイル放送用マイク向けの定番。PSA1アーム・DS1スタンドと組み合わせる前提
AT8455Audio-TechnicaAT2020USB-X / AT2020USB-XP質量103g。5/8インチ27山→3/8インチ16山の変換ネジ付属
A55MShureSM57 / SM58 / SM86 / Beta57A / Beta58A / Beta87A / Beta87Cハンドヘルド型マイクを標準スタンドに付けるためのホルダー兼マウント

1. RODE PSM1

RODEが「Broadcast Microphone Shock Mount」として出している製品である。公式製品ページでは、Podcaster や Procaster といった放送用スタイルのRODEマイクに対応すると説明されている。外部の振動と、マイクを持ち替えたり位置を直したりしたときのノイズを絶縁する用途だ。

この製品を選ぶ判断は単純で、Podcaster や Procaster を使っているならこれ、そうでないなら候補から外れる。RODE純正のアーム(PSA1)やデスクスタンド(DS1)と組み合わせる前提の設計なので、その環境を既に持っている人には迷う余地が少ない。

注意点としては、RODEの公式ページには耐荷重や材質といった詳細な数値が掲載されておらず、データシートPDFを別途参照する必要がある。販売ページに書かれた「◯kgまで対応」といった数値を鵜呑みにせず、公式データシートで確認してほしい。 Amazon.co.jpでは国内正規品が流通している。

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2. Audio-Technica AT8455

Audio-Technicaの公式サイトで仕様が確認できる純正ショックマウントである。対応マイクは「AT2020USB-X」および「AT2020USB-XP」、質量は103g、発売日は2022年9月2日と明記されている。

特筆すべきは取付ネジの扱いで、「変換ネジ(ネジ径5/8インチ、ピッチ27山 - ネジ径3/8インチ、ピッチ16山)」が用意されている。マイクスタンドのネジ規格は5/8インチ27山と3/8インチ16山の二系統があり、手持ちのスタンドやアームがどちらかで買い直しになることが実際に起きる。変換ネジが最初から付いてくるのは、この取り違えを防ぐという意味で地味に効く。

AT2020USB-X系はUSB接続の単体完結型マイクで、在宅会議・配信の入口として選ばれやすい。そのマイクを既に使っていて、打鍵音が乗るという人にとっては、これが最初に検討すべき一つになる。

逆に、AT2020USB-X系以外のマイクには適合しない。同じAudio-Technica製でも、XLR接続の AT2035 や AT2050 は別のマウントになるので、型番を必ず確認してほしい。

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3. Shure A55M

Shureの公式サイトでは「A55M ショックマウントマイクロホンホルダー」として案内されており、SM57、SM58、SM86、Beta57A、Beta58A、Beta87A、Beta87Cを標準マイクロホンスタンドに取り付けるための製品と説明されている。

前の2つと性格が違うのは、対象がハンドヘルド型のマイクである点だ。SM58に代表される手持ち用マイクは、本来スタンドにクリップで留めて使う。そのクリップの役目を果たしつつ、同時に振動を絶縁するのがこの製品である。ホルダーとマウントが一体になっている、と考えるとわかりやすい。

在宅の会議・配信でSM58系を使っている人は少なくない。マイクを買い替えず、留め具だけを替えれば固体伝搬のノイズが減るのがこの製品の立ち位置になる。

Shureの公式ページにも寸法・質量・材質といった数値は掲載されていないため、こちらも詳細が要る場合は公式ユーザーガイドを参照してほしい。対応機種の一覧は公式に明記されているので、適合の判断はそこでつく。

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型番の取り違えに注意する(実際に起きた例)

この記事を書くにあたって製品を調べていて、実際に踏みかけた落とし穴がある。K&M(ケーアンドエム)の「23956」はショックマウントではなくポップガードである。

K&Mはマイクスタンド周辺の定番メーカーで、ショックマウントもポップガードも同じ番号体系の型番で出している。23956は重量220g、アーム長33cm、直径13cmで、直径30mmまでのマイクスタンドに固定するグースネック式のポップガード、というのが実際の中身だ。型番だけで検索して通販サイトのカテゴリ表記を信じると、別の部品が届く。

ポップガードは破裂音(パ行・バ行の息)を防ぐための部品で、机の振動には効かない。逆にショックマウントは破裂音には効かない。名前が似ておらず役割も違うのに、同じ「マイク周辺の網やゴムの部品」として並んでいるため混ざりやすい。

型番で買うときは、メーカー公式サイトの製品ページでカテゴリを確認してほしい。 通販サイトの商品名だけを見て判断しないことだ。

選び方のポイント

1. まず原因を切り分ける。マイクに口を近づけずに机を指で叩いてみて、その音が録れるならショックマウントの出番である。録れないなら原因は空気側なので、この買い物では解決しない
2. 手持ちマイクの型番を確定させる。ショックマウントは汎用品ではない。ここが決まらないと何も選べない
3. メーカー公式の対応表で適合を見る。純正があるなら純正が確実で、AT8455のように変換ネジまで面倒を見てくれることがある
4. スタンド側のネジ規格を確認する。5/8インチ27山と3/8インチ16山の二系統があり、変換ネジが無いと物理的に付かない
5. 併用する対策を分けて考える。破裂音にはポップガード、天板の鳴りにはキーボードマット、固体伝搬にはショックマウント。役割が違うので、一つで全部は解決しない

読者タイプ別には、USBマイク(AT2020USB-X系)を使っているなら純正のAT8455が最短である。SM58系のハンドヘルドを使っているならA55Mでホルダーごと置き換えられる。RODEのPodcaster / Procaster環境ならPSM1が前提の部品になる。どれも「自分のマイクに合うものが一つあるだけ」なので、比較して悩む場面はあまり無い。

まとめ

ショックマウントは、机を伝ってマイクに届く振動を断つための部品である。打鍵音・足音・アームの軋みには効き、エアコンや話し声には効かない。原因の切り分けを先にやれば、期待は外れない。

製品選びは性能比較ではなく適合確認だ。Audio-Technica AT8455はAT2020USB-X / AT2020USB-XP専用で質量103g、5/8インチ27山と3/8インチ16山の変換ネジが付く(2022年9月2日発売)。RODE PSM1はPodcaster / Procasterなど放送用スタイルのRODEマイク向け。Shure A55MはSM57 / SM58 / SM86 / Beta57A / Beta58A / Beta87A / Beta87Cを標準スタンドに付けるためのホルダー兼マウントである。いずれも2026年9月18日時点で各社公式サイトに掲載されている情報だ。

最後にもう一度だけ書いておくと、型番が似ていても別の部品のことがある。K&M 23956はポップガードであってショックマウントではない。買う前に、メーカー公式の製品ページでカテゴリまで確かめてほしい。価格は変動するため、金額はAmazonの商品ページで最新のものを確認してほしい。