会議のたびに音質が落ちる理由

ワイヤレスイヤホンで音楽を聴いているときはきれいなのに、Web会議でマイクを使った途端に音がこもる。これはイヤホンの故障ではなく、従来のBluetooth(Classic Audio)の構造上の制約です。

マイクを使う通話プロファイル(HFP)に切り替わると、音楽用の高音質プロファイル(A2DP)から離れ、通話向けの狭い帯域に落ちます。片方向の音楽再生と、双方向の通話が、別の仕組みで動いているためです。

これを作り直したのが Bluetooth LE Audio です。

LE Audio とは何か

LE Audio は、従来の Bluetooth Classic の無線ではなく Bluetooth Low Energy(LE)の無線の上で音声を扱う仕組みです。Bluetooth SIG は「同じ音声製品・同じ用途をサポートしつつ、新しい機能を加える」「Bluetooth音声の性能を高め、補聴器への対応を加え、Auracastブロードキャスト音声を導入する」と説明しています。

土台になったのは、2019年12月にコア仕様へ加えられた LE Isochronous Channels(等時性チャネル) です。これがBluetooth 5.2の主要な追加機能で、LE Audio はこれ以降のバージョンに対応した機器で動きます。仕様一式の完成は 2022年7月12日 に発表されました。

LC3 コーデック

LC3(Low Complexity Communications Codec)は LE Audio の必須コーデックです。Bluetooth SIG は「Classic Audio に含まれる SBC コーデックに対し、ビットレートが50%低くても音質の改善をもたらす」としています。

ここが実用上いちばん効きます。同じ音質を保ったままビットレートを下げられるということは、

  • そのぶん電池を長持ちさせる

  • あるいは同じ電池容量でより小さい筐体にする

  • あるいは余った帯域を別の用途に回す

のいずれかに振り分けられる、という意味になります。どこに振るかは製品の設計者が決めるので、LC3対応だからといって必ず電池が延びるわけではありません。

Multi-Stream Audio

従来の完全ワイヤレスイヤホンは、片方(親機)が受信してもう片方(子機)へ中継する構造の製品がありました。LE Audio の Multi-Stream Audio は「複数の独立した同期音声ストリームの伝送」を可能にします。

左右それぞれが独立して受け取るため、ステレオの定位が改善し、音声アシスタントの統合や音源の切り替えも滑らかになるとされています。

Auracast

Auracast は、音源が「1つ以上の音声ストリームを、台数制限なく受信機へ同時配信する」仕組みです。空港の案内放送、無音のテレビが置かれた店内、会場での音声補助といった用途が挙げられています。個人の音声を他人と共有する使い方も想定されています。

在宅ワークの机の上で直接効く機能ではありませんが、対応機器が増えるほど公共空間での使い勝手が変わります。

メリット・デメリット

メリット

  • 通話時の音質劣化の構造的な原因が解消される: 音楽用と通話用でプロファイルが分かれていない

  • 同じ音質をより低いビットレートで: SBCに対し50%低いビットレートで音質改善とされる

  • 左右独立受信: Multi-Stream Audio によりステレオ定位が改善する

  • 補聴器への対応が仕様に入っている

デメリット

  • 送信側と受信側の両方が対応している必要がある: イヤホンだけ買い替えても、PCやスマホが未対応なら使えない

  • PC側の対応が遅れがち: 特にデスクトップPCは内蔵Bluetoothが古い世代のことが多い

  • 「Bluetooth 5.2以降」と書いてあっても LE Audio 対応とは限らない: 土台のバージョンと機能の実装は別

  • 効果の出方が製品次第: 省電力・小型化・音質のどれに振ったかは仕様表からは読み取りにくい

買う前に見る3点

1. 「LE Audio」「LC3」と明記されているか: 「Bluetooth 5.3」などのバージョン表記だけでは対応の根拠にならない
2. 送信側の対応を先に確認する: PC・スマホが未対応なら、イヤホン側の機能は使われない。デスクトップPCならUSBアダプタ側の対応表記を見る
3. いま困っているのが通話の音質なら効く: 音楽再生だけが目的なら、既存のコーデックでも不満が出ていない可能性が高い

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出典

  • Bluetooth SIG「LE Audio」(https://www.bluetooth.com/learn-about-bluetooth/recent-enhancements/le-audio/)確認日 2026-09-12

  • Bluetooth SIG による LE Audio 仕様完成の発表(2022年7月12日)確認日 2026-09-12